兄のお迎え

介護の現実

 ごきげんよう。きいです。

 葬儀屋さんへ連絡を入れたのは、病棟の一室からでした。

 家族が待機する際に使用できる部屋のようで、兄のエンゼルケアが行われている間、私と子供たちはそこで過ごしました。

 その間に〝素敵な葬儀屋さん〟の社長、Gさんへ電話をしました。

 兄をお迎えに来ていただくために。

葬儀屋さんへの連絡

 Gさんとは今までにも何度も直接話をしたり、電話連絡をしては延期になったり…いろいろありました。

 だけど、今回は本当にお迎えと葬儀の依頼です。

 兄はエンゼルケアを終えたら、退院しないといけないのです。

退院したらアパートへ戻るか。

私がいるマンションへ向かうか。

どちらもできません。兄をそのままにしておくと、身体が傷んでしまいます。

 何とか身体を冷やしながら、一晩だけでも一緒に過ごすとしても…。

アパートへ戻るならまた私が泊まりこみ。

私がいるマンションは…〝トランク付きエレベーター〟ではないため、兄は乗ることができません。

結果、葬儀の日まで保管して頂くことにしました。

 Gさんへ連絡をすると、30分程で到着できるとのこと。

 それを看護師さんへ伝えました。

 もし、知っている葬儀屋さんがおらず、全然葬儀屋さんのことを考えもしていなかった…という場合でも、それを看護師さんへ伝えれば病院から連絡を入れて頂けるようになっています。

 連絡先の葬儀屋さんは何社かあり、定期的に依頼先を変更することで、病院が特定の会社と「なかよし」になることを避けるようになっています。

 私の場合は既に葬儀屋さんを決めていたので、自分で連絡を入れました。

兄のエンゼルケア

 兄のエンゼルケアはちょっとだけ、一緒にさせて頂きました。

 子供達と私で、兄の両手を清拭しました。

 普段は全行程を一人で行うことが多いので、とても楽をさせて頂いたような気がしました。

 変な気分でした。

 病院を退院するための服はあらかじめ用意していたものを看護師さんにお渡ししました。

 フットボールのチームメイトの皆さんがサインして下さったTシャツの上に、赤いユニフォームを重ねて。

 そのユニフォームは兄のLINEのアイコンに使っていた画像と同じものです。

 ズボンは殆どがブカブカになって合わなくなくなってしまったので、唯一履けた茶色のズボンを。

 洋服は兄に「これでいいよね」と了承を得ていました。

 「余命数日」と言われた後、奇跡の退院を果たした兄と「あの時は本当に死ぬかと思たんだから」と笑いながら、本番はどうするかと選んだものです。

 その服を着て、兄はいつもの出入口とは違うルートからひっそりと退院しました。

 病棟のスタッフ皆さんが、忙しい中手を止めて立ち上がり、礼をして見送って下さいました。

 皆様、本当にお世話になり、ありがとうございました。

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