私の母は今、介護が必要です。
でも、寝たきりではありません。歩くこともできます。
だけど、一人歩きをして迷子になってしまうことがあります。
それが夜中であっても。
パジャマのままで外へ出かけようとすることもあります。
母はその時、止める私に言いました。
「家に帰って、ちびちゃんにご飯を食べさせてあげないと!」
優しい母なんです。
母の症状
母は〝アルツハイマー型認知症の中期〟と診断されています。
症状は主に、物忘れ・見当識障害・徘徊・睡眠障害・幻聴(時々)・意欲低下などが見られています。
わかりやすく言うと…
・さっきあったこと、言ったことを憶えていられません。何度も声を掛けないと、自分が何をしたかったのかがわからなくなってしまいます。
・今住んでいる場所が自宅だと理解できず、生まれ故郷の家に帰りたがります。
・故郷の家へ帰ろうとして、自宅から一人で外に出て、帰れなくなった経験が あります。
・夜中に目を覚まして買い物に出かけようとします。
・寝入りばなや夜中に、亡くなった父や幼かった頃の弟が呼ぶ声が聞こえたと言っては飛び起きて、家中を探して回ります。
・「面倒くさい」「しんどい」と言ってゴロゴロしています。放っておいたら、一日中着替えも洗面も歯磨きもせずに生きていけそうです。
これらすべてに一切の悪気はありません。
昔、虫垂炎や胆石、白内障の手術を受けたことがあります。年相応の老化はありますが、内臓機能に大きな問題はありません。
両膝は、変形性膝関節症のため歩き出しに痛みがでます。長い距離も歩けません。そのおかげで、一人歩きをした時も、自宅からそう遠くない場所で発見されます。
どちらかというと温和な性格。昔は頑固な一面もあったのですが…。
昔の母は…
母は子供の頃に父親を亡くしています。三人姉弟の長女として母親を手伝い、二人の弟の世話をしてきたと聞いています。二人の弟を進学させるため、成績優秀だった母は先生が惜しむ中、高校を卒業後県庁へ就職。
父との結婚後は主婦として、母として家を守って来ました。子供の手が離れると、パートで事務職に就き、家計も支えてきました。
定年退職後も、シルバー人材センターに登録し、お仕事をしていた働き者です。
小さなころから勉学も優秀、スポーツも得意、歌も上手、バイオリンやピアノも弾いていたというのは親戚筋からの情報です。実家の片づけをしたら、成績が優秀だったことを裏付ける証拠がでてきました。
私の子供のころの写真を見ると、母が縫ってくれた洋服を着て映っています。家には足踏みミシンがあって、私も使い方を教わった記憶があります。
家には古いオルガンがありました。母が弾き方を教えてくれたのですが、隣に住む女の子の持っていたピアノがうらやましくて、オルガンは嫌だとわがままを言ってやめてしまいました。
私は子供のころ病弱だったので、よく熱を出し母に心配をかけました。
勉強よりも空想が好きで、成績は母のように優秀ではありませんでした。
良い娘ではなかったと思っています。たくさん心配もかけてきました。
今、それらの記憶が私の〝母を介護する原動力〟になっているのかもしれません。
私は今、母と喧嘩をすることができなくなってしまいました。
文句を言うことはありますが、対等な立場で喧嘩をすることができなくなりました。
それがなぜか寂しいのです。