えい君の退院 ~其の一~

介護の現実

ごきげんよう!きいです。

 まりぃさんは老健入所へ向けて話が進んでいます。えい君の方はまだ50代ということもあり、在宅へ戻るにあたって、介護保険の申請や訪問診療医と訪問看護ステーション、ケアマネジャーの決定などの準備が必要です。

まだまだやることはいっぱいです。

退院前の話し合い

 えい君は入院治療を続けながら、退院の日を待っています。

 兄に病室で面会することはできません。

ここでも〝新型コロナ感染予防のため〟です。

会議室で兄と主治医の先生と退院調整看護師のTさんとで話し合い。

 そこに現れた兄は持続皮下注射のポンプを肩から下げ、ぶかぶかに感じるスウェットの上下は痩せた身体を余計に引き立たせています。スリッパでぺたぺたと歩くその足首も「人って痩せると、足首までこんなに細くなるんだ」と思わせました。

 その会議の際に「事前に探しておいてください」と言われていた事について…。

〝ケアマネジャーはのんさん。訪問看護ステーションは私が勤務するステーションにすでに話は通してあること。訪問診療医は信頼する医師の訪問クリニックへお願いしたいと考えていること〟を伝えました。

 兄は、その選択については「自分はどこが良いのかよくわからない。良くわかっている〝きい〟が良いと思うところに決めてくれ」と言っていました。

 先生からは退院前に緩和医療科を受診し、バックベッド登録(在宅療養中の病状急変時や疼痛コントロール困難、家庭での介護が困難となった場合などに円滑に入院加療できるよう登録し、在宅でも安心して療養を継続できるための支援体制です)を勧められました。

 Tさんからは、できるだけ早く介護保険申請を進めるようにと言われました。

私は早速その日の病院帰りに、まりぃさんの時と同じように保健センターへ立ち寄り、申請を出そうと思いました。

 ですが…。やっぱり何かしらはスムーズにいかないことがあるもので…。

またまた、ドタバタ!

  保健センターへ立ち寄り、申請を出そうと思った私でしたが…。

 兄の申請に必要な物(病院名や主治医の先生の名前が記載された診断書や印鑑など)は持っていたのですが、健康保険証が病棟のナースセンターに残っていました。

 保健センターの担当者さんは、兄の年齢や病院名から病状を汲み取って下さり、一刻も早い申請をする方法を考えて下さったのですが、どうしても保険証が無いと次へ進めることができないそうで。

 私は現場から病棟へ電話をかけ、確かに兄の保険証がそこに有ることを確認しました。そして、保険証の情報をFAXしてもらうことはできないかと聞いてみたのですが答えはNG。「顔の見えない電話をかけただけの女性の言うままに個人情報をFAXすることはできない」ということのようで。

ごもっともです。

…ということで、私は〝保健センターの窓口が閉まる時間まであと20分しかない〟という状況下で、保健センターと兄の病院の往復をし、保険証を病院から入手。保健センターへ無事提出したのでした。

 保健センターの窓口の方は、私が姿を現した時に、満面の笑みで「良く間に合いましたね‼」と喜んでくれました。

なぜそこまで急ぐ必要があったのか?

 実は高齢者の介護保険申請とは違い、若い人の癌による介護申請の場合、早く事を勧めないと手遅れになることがあるのです。

 病状が悪化し「最期は自宅で」という思いを叶えるために〝自宅に戻れるか?移動途中で命がなくなってしまうことも覚悟の退院!〟というケースもあります。

 帰れたのはいいけれど、ケアマネも決まっていない。福祉用具も何もない。という状況に陥ってしまう方も、実はいらっしゃるのです。

 介護申請の途中で、その方が亡くなってしまうということも有り得るのです。

 余命わずかな若いがん患者さんにとって、退院後の環境調整のために必要な介護保険サービスは、やはり速やかな手続きが望まれます。

 兄の場合はそこまでの緊急性はありませんでしたが、認定調査はできるだけ早い日程調整をして下さることになりました。

 後日、入院中の兄の元へ調査員さんが来て下さり「要介護1」の認定が下りました。

 そして入院している兄は、その日の私のドタバタ劇を何一つ知らず、粛々とことが進んでいると思っていたのでした。

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