ごきげんよう!きいです。
「このタンスは、お嫁に来る時に両親が持たせてくれたものなのよ」という話は、利用者様からも良く伺う話です。素敵な洋風の一戸建ての部屋に、古い桐の大きな箪笥がドドン!と置いてあるという場合には、ほぼそのような思い出が込められています。
思い出も共にできるということは本当に幸せなことですね。ですが、私は容赦なく両親の思い出の込もった品々を破棄しようとしています。心が痛みました。でも現実問題、すべての思い出を新しい環境へ持ち込むことは困難です。
その思い出がどんなものなのか。手放しても良いものなのか。どうしても手放したくない物なのか?子供である私やえい君には判断がつきません。
父はコレクターの気があったので、相談したら「全部捨てるな!」と言われることは火を見るより明らか。ここはもう、両親に恨み言を言われても仕方がない。何を言われても、私達兄妹が背負う覚悟を決め、片づけを進めました。
まりぃさんが転居後にも使う、生活必需品、普段使っていた食器、よく着ていた衣類などは新居へ。
両親の若かった頃の写真や、えい君ときいが幼かった頃の写真が多いのにはビックリ。まりぃさんの子供のころの賞状を未だにとってあったことにもビックリ!こういった思い出の品は、えい君に保管してもらうことになりました。
古い家具や日に焼けて埃をかぶった本、壊れて動かない時計や何かの部品のようなもの、旅行のお土産で買ったと思われるキーホルダーやペナント(懐かしい…)お客様用の布団なども、もう不要となります。処分するものの多さには驚き!これだけの不要な物と生活していたのか?と思うのですが、どれも両親にとっては宝物。処分にはちょっとだけ?いや、かなり胸が痛みました。
ここでも、本当に思いました。
「元気なうちに、自分たちで整理しておいてくれれば良かったのに!」と。
いよいよ引越し!
まりぃさんの引越しは金曜日を選びました。週末をまりぃさんと過ごし、生活の様子や受け入れの状態を確認したかったからです。
「夜逃げって、こんな感じ?」というような、最小限の荷物だけを持って、私の運転する軽自動車でまりぃさんと共に移動しました。
新居となるマンションには事前に組み立て式の家具を準備し、これはあった方がいいと事前に運び込んでいたものや、私の必要最低限の物がすでに運び込まれていました。私が泊まり込んでまりぃさんの生活を見守るためのものです。
まりぃさんが混乱しないように、洗面所と浴室の入り口となるドアにはピンクの花をつけた「BATHROOM」と書いた看板を下げ、トイレのドアには黄色い花をつけた「TOILET」の看板をさげました。娘が手作りしてくれた目印です。
まりぃさんは案外英語がわかるので、この看板は好評でした。
実家の近所の方にもご挨拶をしました。皆さん、母の様子を心配して下さっていて、特にお隣の老夫婦は「今日、まりぃさんの姿が見えないんだけど。いつもならこの時間には洗濯物を干している筈なんだけど。TVの音は聞こえるんだけど、中で倒れてやしないかねぇ…」と電話を下さったこともありました。本当にありがたかったです。
菓子折りを持ってまりぃさんとお礼を言ってまわりました。
皆さん「良かったね。」と言って下さって、まりぃさんも笑顔でお別れをすることができました。
初めての夜は、まりぃさんができるだけ楽しい気分でいられるようにと、家族で小さなパーティーをしました。まりぃさんは夜もぐっすりと眠りました。
いよいよまりぃさんの新生活が始まるわけですが、その泊まり込んだ週末はトイレの場所や洗面所の場所、使っていいものなのか、悪いものなのか?という確認がずっと続きました。
何度も何度も同じ説明を繰り返す私。これは覚悟をしていたことですが、実際に体験するととても疲れました…。
週明けは仕事を何日も休むわけにはいかないので、「きいは仕事に行ってきます。〇時には帰ります」というメモを残し、お昼用のお弁当とお茶を用意して、できるだけまりぃさんが台所(危険地帯)へ入らずに済むようにしました。訪問看護の移動時間にちょっと家を覗いて、まりぃさんの無事を確認もしました。
そして今も続く…
ですが…何と!引越しの日から5年経った今も、まりぃさんの確認や危険回避の色々は続いているのです。本当に見事に、何も変わらない。トイレや洗面所の場所は今もお花の看板で確認しています。
憶えられないって、こういう事なのですね。
結局、<認知症の母への対応で心がけていること~後編~>でも挙げたように、自宅内の危険とは常に隣り合わせなまりぃさんの状況を知り、私は職場からの行き返りに寄って…というだけではまりぃさんの生活は困難と考え、〝ほぼ同居→ガッツリ同居〟という状況になってしまうのです。
まりぃさんが住む場所は決まりましたが、生活は〝住〟だけではありません。これからの生活では一人の時間を減らすため、デイサービスを利用したい。普段の生活、食事や清潔、安全の確保…誰か相談に乗ってくれる人、力を貸してくれる人が必要です。ヘルパーさんに入ってもらうにせよ、他の方法を考えるにせよ、ケアマネジャーさんをお願いしないと。
先ずは介護申請を出さなくては何も始まらない…。いろいろまりぃさんを思って行動した頃でした。