搬送先が見つからない!

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 <滞在時間1時間半>のつづきです…。

 台所で転倒し、骨折していると思われ床上で動けないでいるAさん。救急隊の隊長さんがいくつもの病院へ受け入れの要請をして下さっていますが…。残念なことに断られ続けているようです。

 まだコロナのコの字もない頃の話です。それでも受け入れ先は見つかりません。

 私は床に横になっているAさんの身体に掛物を掛けたり、救急隊の方と一緒に身体の下に座布団を敷きこんだりして、床の上で横になる苦痛が少しでも楽になるようにしました。足の腫れと痛みを抑えるために、冷凍庫の中の保冷剤をかき集めて太腿を冷やしました。

 するとまた、隊員さんが声をひそめて私に聞きます。
「この方は、生活保護を受けていらっしゃる方ですか?」
「いいえ。違います…」

 自分がいつ頃、どの病院を受診したことがあるのかを隊長さんへ報告していたAさんでしたが、私が隊員さんと話しているのに気が付きました。
不安そうな視線を感じます。
「Aさん、ご飯は食べ終わったところだったんですか?それともこれからだったんですか?」という様なことを話しかけ、私はAさんの気持ちを逸らそうとました。
「食べる支度を始めたところだったの…」
空腹も辛いだろうと、何か食べられそうかと伺いました。
ですが、こんな状況です。
「何も食べたくない」と、少しお茶を口にされただけした。


 その間も隊長さんの電話は続きます。
「〇〇消防所の☆☆です。はい。転倒、大腿骨骨折の可能性のある女性です。年齢は…」そしてしばらく話した後「はい、お独り暮らしの方です。お姉さんが県外にお住まいで…」その繰り返しが続きます。
 その様子が気になって仕方がないAさん。
「まだ決まらないの?私、どうなるの?」と不安そうでしたが、隊長さんが電話を切ると、とうとう泣き出してしまいました。
「ねえ、きいさん…。どうしてR病院(かかりつけ病院)に入院できないの?私が一人暮らしだからダメなの?」
「いえ。先生が今、手術中でAさんを診ることができないんですって。」
「だったら、終わるのを待つわよ!」
「前に入院した病棟も、患者さんが一杯らしいんです。」
「そんなの嘘よ。いつもはそんなに混んでないもの!」
(いつもって、いつの話だ…???)
「Aさん。寒くないですか?足は痛くないですか?」
「大丈夫よ!」
Aさんは泣きながらも、段々鼻息が荒くなってきました。


それでも、隊長さんの病院への受け入れ要請は続き…
「もう私、入院なんてしない!死にたい!みんな、私をこのままにして帰ってちょうだい!もうどうなったっていい!」
いよいよAさんは搬送拒否をはじめました。

 私もこの場を離れることができません。次の訪問予定を変更してもらう必要があります。
救急隊の方にAさんをお願いし一度外に出て、Aさんに聞こえないところで所長へ状況報告の連絡をしました。
 救急隊が搬送先を探しているが、まだ見つからず搬送に時間がかかりそうなこと。10件近く問い合わせをしているが、すべて断られていること…。
 所長もカルテを見ながら「C病院は?S病院もダメ?」
「全部あたってダメだったみたいです」
「…そっか…」

 私がAさんの後に訪問に伺う予定だった方を他のスタッフへチェンジしてもらい、また現場へ戻りました。
さて、搬送先が決まるまでどうやってAさんと過ごすべきか。自暴自棄になって来たAさんをどうやって励ますべきか?
悩むところです…。

つづく。

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