(おそらく)大腿骨の骨折だと思われる状況のAさん。
患部の安静のために、救急隊の方が持参したシーネで足は固定されています。
それでも動かすと痛むので、腰も足も動かすことができません。
そんな状況の中、なんとAさんは「トイレに行きたい…」とおっしゃいます。
さて、どうしましょう?
私の頭に真っ先に浮かんだのは、車に積んだ〝いただき物のオムツと尿とりパット〟の存在でした。
実は、亡くなった方やオムツを卒業された方がお使いだったものを「何かに使って下さい」と託されることがあるのです。
それがある程度溜まると、スタッフで分けて車の中に積んでおきます。
初めてオムツや尿取りパットを使うことになり、どういうものを買えば良いのか?
どうやってオムツ交換をすればよいのかがわからない(最近は面会禁止の病院も多く、オムツ交換の指導を受けられても1回!という状態で退院になるケースもあるのです)と言う方の指導や処置・ケアに使うことがあるのです。
それを何とか使えないものか?
停めた車の中から、尿取りパットの〝夜間用〟と〝Sサイズ〟を何枚か持ち込み、救急隊の皆さんには隣室へ移動して頂き…。
私はAさんの折れた足を動かさないように、臀部にできるだけ〝夜間用〟を隙間なく密着させ、〝Sサイズ〟を蛇腹状に折り畳み、防波堤のように当てがったのでした。
(全然イメージできないですよね。良いんです。なんとなくまろやかに想像しても良いし…しなくても良いし…(笑))
とにかくしっかり尿取りパットをあてがい、吸収してもらおうという作戦でした。
「少しくらい漏れても仕方がない」
これはAさんと私の共通認識でした。
「そ~っと、お願いしますね…。そ~っとね…」
「そ~っとね…」
ですが!これが!全然濡らすことなく、しっかりキャッチすることができまして!
Aさんがすごかったのか、尿とりパットがすごかったのか?
とにかくAさんは無事にピンチを乗り越えたのでした!
2人でホッとして、和やかな雰囲気の中衣類を整えていると…。
「Aさん。R病院の先生が診てくれますよ!」と隊長さんが乗り込んで来ました!
「だけどですね、いつもの病棟にはベッドの空きがないんです。今日は検査だけして違う病棟で過ごしていただくことになるようですが、それでもいいですか?」
「それでも良いです~(涙)」
それからは、早かった!
Aさんの気分を変えるために、日ごろから準備してある入院セットは出しておいたし、お風呂の残り湯を流したりガスの元栓を止めたりする余裕もありました。
ケアマネさんへR病院への搬送が決まったと連絡すると、病院へ向かって下さることになりました。お姉さんにも連絡して下さるとのこと。
今まで停滞していたものが、一気に動き出したようでした。
Aさんがストレッチャーで運び出されるときも…。
「靴、持ったわよね!杖もあるわよね!きいさん、ちゃんと鍵を掛けてね!窓の鍵も閉めてくれたでしょ?」とず~っと確認と指示出しを続けていました。
戸締りを済ませた私も「ちゃんと閉めましたよ!鍵はバックのポケットに入っていますからね!」とAさんへ声を掛けます。
きっと救急隊の皆さんには「うるさい二人だな」と思われたかもしれません。
「では出発しますね!」と救急車のドアが閉まり、走り去る後姿を見守り…。
どっと疲れが押し寄せたのでした(笑)
こんな状況が私が体験した、受け入れ要請回数15回、滞在時間1時間半です。
東京都のどこかで起きた「要請回数117回」は…。
いったいどのような状況だったのでしょうか?
気になるけれど、できれば体験したくないな…。