まりぃさん、夫との別れ。

母の介護

 ごきげんよう!きいです。

 今回は私の父が誤嚥性肺炎で逝った際、まりぃさんへの対応をどうしようかと考えたときの話です。その頃は、まりぃさんは既に認知症を発症していました。

 そんなまりぃさんへ、自分の夫が亡くなろうとしていることを伝えるべきか、黙っておくべきか。

 葬儀の時、参列させるべきかしない方が良いのか?そして妻としての立場や尊厳をどのように支えるか。いろいろ迷った結果です。

「どうですか?」

 父が特別養護老人ホームへお世話になった後、まりぃさんは認知症を発症しました。

 父にそのことを伝えたときは「そうか。」と言っただけでした。

 その後も面会へまりぃさんを連れて行き、夏祭りなどのイベントにも参加した時期もありました。まりぃさんはいつも父に「どうですか?」と聞き、父はその時に気になることや、体調について話をしました。父はまりぃさんが面会に行くと少し嬉しそうでした。

 父は誤嚥性肺炎になる少し前から「ベッドが回る」「屋根から水が降ってきた」と話すことがありました。面会に行くと昼間から眠っていることも増えていました。

 そしてある日、高熱と呼吸苦のため医療連携を図っている病院へ搬送されました。

 入院先への面会はまりぃさんを連れて行きました。そこでもまりぃさんは「どうですか?」と父に聞きました。父は黙ってうなずくだけでした。

 まりぃさんは面会時間が長くなっても落ち着いた様子で、静かに飽きることなく父の傍にいました。

 そして10日ほど入院した後、父は逝ってしまいました。

 病院から急変の知らせを受けたのは夕方で、まりぃさんも連れて父に面会をしました。

 時間が夕方だったこと、そしてまりぃさんが病院で静かにいられるから、一緒に行きました。

事の重大さを理解できていないのだろうなぁ…。とも思いましたが。

 その夜は兄のえい君が病室に泊まってくれました。

 「お父さん、もうお別れが近いよ。」とまりぃさんへ言ったとき、「〇〇さんと△△さんへ知らせないと。」と親戚の名前を言いました。

 だけどそれだけ。連絡を入れるわけではなく、もちろん連絡先を書いた手帳を見返すこともありませんでした。

 えい君へは、まりぃさんのそんな様子を伝えていました。その後看取りの瞬間にまりぃさんが立ち会うことで、悲しい思いをして落ち込んだり、混乱してしまうのではないか、という事も相談しました。

 でもいくら考えても、それ以上のことは予測ができませんでした。

えい君と決めたこと。

 えい君と決めたことは「まりぃさんのタイミングに合わせよう」ということ。

 まりぃさんが寝ている時や食事中などは、無理に父に合わせようとしない。

生活のリズムを崩さず、病院の面会時間に伺い、タイミングが合えば父を看取る。

タイミングが合わなかったら、えい君にお願いをすることにしました。

 それでいいと思いました。

 病院のナースさんへもそのことを伝えました。

 父本人も「それでかまわん」と言ってくれるだろうと思いました。

 父が逝ったのは土曜日の午後でした。

 まりぃさんとえい君、私と娘、私の義母が見守る中でした。夫と息子は少し遅れて到着しました。まりぃさんは父の心拍が停まる時、一番傍にいて肩を触っていました。

 悲しい思いをして落ち込んだり、混乱してしまう…なんていうことは一切ありませんでした。

 先生は「〇時〇分です。」と時刻だけを言葉にして、一礼をして退室されました。

 「在宅の看取りみたいに、家族を労ったり家で過ごせた時間を振り返るような話はしないんだな…。」と私は変なことを考えていました。

 涙はありませんでした。

 葬儀は、私が知っている〝素敵な〟葬儀屋さんへ依頼をしていました。

 喪主はえい君が務めることにしました。まりぃさんは葬儀の日に、私が用意した楽で動きやすい喪服風の黒の上下と靴を身に付け、車椅子に座って参列しました。

 静かに落ち着いて座っていることができたし、お焼香の時は私が車椅子を押したり、まりぃさんの手を取って一緒にお焼香をしました。

 身内の皆さんはまりぃさんのことを知っているので、あまりあれこれと構わずにいてくれました。

 逆にまりぃさんの方が、皆さんに久し振りに会えたことがうれしいのか、にこにこと笑顔でいられました。

 一見、「ただ足が悪い高齢の妻」のようでした。

 認知症のまりぃさんも、看取りやセレモニーは大丈夫でした。

 妻としての立場だの尊厳だのと色々考えましたが、最終的には「流れに任せたら、何とかなった。」という結果でした。

 ただ、その後…夫の存在はすっかり忘れ去ってしまい、今や仏壇も夫の遺影も風景と化してしまったようです。

 ケアマネののんさんと話すときも、独身時代の県庁で活躍していた時や学生時代の話に花を咲かせています。

「まりぃさんって、結婚していた頃の話ってされませんねぇ…」とのんさんと私は顔を見合わせるのです。

 だけど、夜中には「ハイ‼」と父の呼ぶ声に反応してしまうまりぃさんがいます。

 なんだか不思議な気がします。

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